SHODO — 書道について
書道— 筆で、一字に思いをこめる
最後に筆を持ったのは、いつでしたか。
スマートフォンで文字を打つのが当たり前になり、筆で字を書く機会はすっかり少なくなりました。
けれど、墨の香り、紙に筆が触れる感触、一画ずつ形になっていく字には、今も変わらない魅力があります。
書道のことを少し知って、一年に一字だけ、あなたの字を書いてみませんか。
書道とは
書道は、筆と墨で文字を書き、その線や形で美しさや思いを表す芸術です。中国で生まれ、漢字とともに日本へ伝わりました。日本では平安時代に仮名が生まれたことで、漢字と仮名を組み合わせた日本ならではの書が育っていきます。
書道には、技を学ぶという面もあります。昔の名人が残した書を手本にして、筆の運び方や字の組み立て方を身につけていく。この技法を「書法」と呼びます。手本から学び、やがて自分の字を見つけていくところに、書道の奥深さがあります。
2021年には、国の文化審議会が、書道を「登録無形文化財」とするよう答申しました。漢字や仮名の書だけでなく、印を彫る「篆刻」も含めて、日本の大切な文化として受け継いでいくことになっています。
書道・書写・習字の違い
学校で習った「書写」や「習字」と、書道は少し違います。
- 書写しょしゃ
- 小・中学校の国語で学ぶもの。筆と鉛筆で、正しく整った、読みやすい字を書けるようにする
- 書道しょどう
- 文字を使った芸術。書くことと、作品を味わうことの両方を楽しむ。高校では芸術の科目の一つ
- 習字しゅうじ
- 字を習うこと。昔の教科の名前で、今も「書写」の意味でよく使われる
書写は「正しく読みやすく」、書道は「美しく、自分らしく」。
同じ筆を使っても、目指すところが少し違います。
書道をすることで得られるもの
書道は、字を上手にするためだけのものではありません。筆を持つ時間そのものに、いくつかの良さがあります。
気持ちが軽くなる
書道をする前と後で気分を比べたところ、疲れや落ち込みが和らぎ、すっきりした感じが増えた、という研究報告があります。
墨を磨る時間
硯で墨を磨るあいだは、手を動かしながら、これから書く字のことを考える時間です。この準備の時間にも、気持ちを落ち着かせる働きがあるかもしれない、と言われています。
一画に集中する
筆で書いた線は、消しゴムで消せません。一画ずつ向き合ううちに、自然と目の前のことに集中していきます。
漢字がもっと好きになる
書体の移り変わりを知ると、見慣れた漢字の形にも理由があることが見えてきます。
形に残る
書いた字は、そのときのあなたの記録になります。一年に一字ずつ書いていけば、字そのものが、あなたの歩みを語ってくれます。
書道の歴史
書道の歴史は、漢字の歴史と重なります。三千年以上前の中国で生まれた文字は、形を変えながら日本へ渡り、日本の書として花開きました。
中国CHINA
- 殷・周
亀の甲羅や動物の骨に刻んだ「甲骨文」、青銅器に鋳込んだ「金文」が作られる。漢字のはじまり
- 秦
始皇帝が国を統一し、文字の形もそろえられる。このとき標準になったのが篆書
- 漢〜唐
篆書を簡単にして書きやすくした隷書が広まる。続いて草書・行書・楷書が生まれ、少しずつ形が整っていく
- 4世紀
東晋の王羲之が、書を芸術の高みへ引き上げる。後の世に「書聖」と呼ばれ、代表作に「蘭亭序」がある
日本JAPAN
- 奈良
漢字とともに書が伝わる。王羲之の書は手本として大切にされ、光明皇后が書き写した書が正倉院に残る
- 平安のはじめ
嵯峨天皇・空海・橘逸勢の三人が「三筆」と呼ばれる。中国・唐の書、とくに王羲之に学んだ書
- 平安の中ごろ
小野道風・藤原佐理・藤原行成の「三跡」が、ふっくらとやわらかな日本風の書「和様」を築く。漢字をくずして平仮名が生まれ、和歌とともに、流れるような仮名の書が育つ
- 室町
茶の湯が広まり、名筆の切れ端や禅僧の書が、茶室の掛け軸として大切にされる
- 江戸
本阿弥光悦・近衛信尹・松花堂昭乗が「寛永の三筆」と呼ばれる。寺子屋では手本を見て字を習う「手習い」が学びの中心になり、多くの人が筆を持つ
- 明治
学校に「習字」の授業ができる。博覧会や展覧会で、書を作品として飾って見せるようになる
- 昭和〜今
学校の毛筆の学習は「書写」という名前になり、今も小学3年生から筆を習う
- 2021年
書道が国の登録無形文化財として答申される
貴族も、僧も、武士も、町の子どもたちも、それぞれの時代に筆を持ってきました。書道は、ずっと人々の暮らしのそばにあった文化です。
五つの書体
同じ漢字でも、書き方の様式によって見た目は大きく変わります。この様式を「書体」と呼び、代表的なものが次の五つです。

篆書てんしょ
いちばん古い書体。線の角が丸く、絵のような雰囲気が残っています。今もよく見かけるのは、印鑑の文字です。

隷書れいしょ
篆書を簡単にして、書きやすくした書体。横に平たい形で、横画の終わりを波のように払うのが特徴です。お札の「壱万円」の文字にも使われています。

草書そうしょ
点や画を大きく省いて、続けて速く書く書体。読むには慣れが必要ですが、流れるような美しさがあります。平仮名のもとにもなりました。

行書ぎょうしょ
楷書を少しくずして、速く書けるようにした書体。読みやすさと書きやすさを兼ねていて、手紙や普段の手書きに向いています。

楷書かいしょ
一画ずつ、はっきりと書く書体。今の私たちにいちばんなじみがあり、学校の書写でも最初に習います。
古い順:篆書隷書草書・行書・楷書
文房四宝 — 書道の道具
書道に欠かせない筆・墨・硯・紙の四つを、昔から「文房四宝」と呼んで大切にしてきました。実際に書くときは、紙を押さえる文鎮と、紙の下に敷く下敷きも使います。
筆ふで
毛のやわらかさで書き味が変わります。羊などのやわらかい毛は、扱いは難しいものの深みのある線が書けます。馬などの硬い毛は扱いやすく、二つを混ぜた筆がいちばん一般的です。初めての人は、混ぜた毛か硬めの毛の筆がおすすめです。
尖斉円健よい筆の目安は「尖・斉・円・健」。穂先がとがり、毛先がそろい、穂がふっくらと丸く、弾力があることです。
墨すみ
墨は、植物の油や松を燃やしてできた煤を、膠(にかわ)で固めたもの。膠のにおいを和らげるために香料も加えられています。国内で作られる墨のおよそ9割は奈良で作られていて、今も職人が一つずつ手で仕上げています。
硯すずり
墨を水で磨りおろすための石。墨を磨る時間は、心を整える時間でもあります。手軽に始めるなら、磨らずに使える墨汁もあります。
紙かみ
練習には「半紙」を使います。にじみやかすれの出方は紙によって変わり、それも書の味わいになります。
書いてみよう — 筆づかいの基本
上手に書こうと構えなくて大丈夫です。いくつかのことを意識するだけで、字はぐっと変わります。
姿勢を整える
背すじを伸ばし、紙と体をまっすぐ向き合わせます。紙が動かないように、文鎮で押さえておきましょう。
一画は「トン・スー・トン」
一本の線は、書き始め・線を引く・書き終わりの三つでできています。書き始めで筆を置き(トン)、すっと引いて(スー)、書き終わりで止める(トン)。学校でもこのリズムで習います。
一本の横画は、書き始め・送筆・書き終わりの三つでできている とめ・はね・はらい
線の終わりの形には、止める「とめ」、跳ね上げる「はね」、すっと抜く「はらい」があります。筆を押す力を変えると、線が太くなったり細くなったりします。上手な人ほど、筆を細かく上下に動かして、線に強弱をつけています。
とめはねはらい手本を見て書く
昔の名人の書を手本にして書き写すことを「臨書」と言います。書道の練習の基本です。
KANJERO で、今年の一字を
KANJERO は、一年を漢字一文字で残していくサービスです。
筆や墨がなくても大丈夫。投稿画面の「手書きする」から、スマートフォンの画面に指で、あなたの一字を書けます。半紙に書いた字の写真を載せることもできます(JPG)。
今年はどんな一年でしたか。その一年を、一字に込めてみませんか。
参考資料
このページは、次の資料を参考に書きました。
- 文化庁「書道の登録無形文化財への登録について」(広報誌ぶんかる)(外部サイト)
- コトバンク「書道」(デジタル大辞泉、日本国語大辞典 ほか)(外部サイト)
- コトバンク「書写」(日本大百科全書 ほか)(外部サイト)
- コトバンク「習字」(日本大百科全書、世界大百科事典 ほか)(外部サイト)
- コトバンク「書体」(日本大百科全書、世界大百科事典 ほか)(外部サイト)
- コトバンク「三筆」(日本大百科全書、山川 日本史小辞典 ほか)(外部サイト)
- コトバンク「王羲之」(外部サイト)
- えどがわデジタル美術館「書」(江戸川区)(外部サイト)
- インターネットミュージアム「和様の書」(東京国立博物館 特別展の取材記事)(外部サイト)
- 筑波大学 知識情報・図書館学類「書道介入がもたらすストレス軽減効果」(研究要旨)(外部サイト)
- 大東文化大学「『書道』が人体に及ぼす影響について実験・検証を実施」(外部サイト)
- 呉竹「墨について」(外部サイト)
- 墨運堂「筆のお話」(外部サイト)
- 山梨県「小学校用教科用図書 採択参考資料『書写』」(外部サイト)
